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赤外線放射温度計の原理と応用

=赤外線放射温度計の原理 非接触式温度測定用の赤外線放射温度計は、高度に開発されたセンサであり、産業プロセスおよび研究分野で広範囲に応用されています。本書では、数式を使用せずに測定技術の基礎となる理論を解説し、この理論を使用して、利用者が設定しなければならない多様なアプリケーションパラメータが決定される過程を説明します。

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赤外線放射温度計の原理

赤外線放射温度計は、絶対零度(0°ケルビン)を超える温度のあらゆる物質から放出される赤外線エネルギーを検出することで温度を測定します。最も基本的な設計では、検出器上のレンズで赤外線(IR)エネルギーを集め、そのエネルギーを電気信号に変換し周囲温度差に対して補正した後、温度の単位で表示します。この構成により、測定対象物と接触せずに離れた場所からの温度測定が可能です。このように、熱電対またはその他のプローブ型センサを使用できない場合や、さまざまな理由から正確なデータが生成されない状況下で温度を測定する場合に、赤外線放射温度計は役立ちます。典型的な状況として、測定対象物が動いている場合、対象物が誘導加熱時のように電磁界によって囲まれている場合、対象物が真空またはその他の調節空気内にある場合、または高速応答が必要な場合があります。

赤外線放射温度計(IRT)のデザインは、遅くとも19世紀後半には存在し、Féryによるさまざまな概念は、1911年に出版されたCharles A. Darling (1)の著書『Pyrometry』に記されています。しかし、これらの概念が実用的な測定機器に変換され同技術が利用されるようになったのは、1930年代になってからのことです。それ以降、設計は大きな進歩を遂げ、大量の測定・応用知識が蓄積されています。現在、この技術は一般に認められ、産業界および研究分野で広範囲に使用されています。

測定原理

上述のように、IRエネルギーは、0°Kより高い温度のあらゆる物質から放出されます。赤外線放射は電磁スペクトルの一部であり、可視光と電波の間の周波数を持ちます。スペクトルのIR部分は、0.7マイクロメートルから1000マイクロメートル(ミクロン)の波長の範囲です。図1。この周波数帯内で、0.7ミクロンから20ミクロンの周波数だけが、実用的な通常の温度測定に使用されます。これは、現在産業界で利用されているIR検出器の感度が十分ではなく、波長が20ミクロン未満の非常に微量のエネルギーを検出できないためです。

赤外線スペクトル 0.7~1000 マイクロメートル(ミクロン)
赤外線スペクトル 0.7~1000 マイクロメートル(ミクロン)
電磁スペクトル

IR放射は人間の眼には見えませんが、測定原理を考える場合やその応用を検討する場合は、可視光であるかのように想像するとわかりやすいです。それはIR放射が多くの点で可視光と同様の動きをするからです。IRエネルギーはエネルギー源から直線的に移動し、その経路にある物質の表面によって反射されたり吸収されたりします。人間の眼には不透明に映るほとんどの固体物の場合、IRエネルギーが物体の表面に衝突すると、一部は吸収され一部は反射されます。物体によって吸収されたエネルギーのうち、その一部は再放射され、一部は内部に反射されます。これは、ガラスや気体、薄い透明なプラスチックなどの人間の眼には透明な物質の場合でも同様ですが、それだけではなく、IRエネルギーの一部は物体を通過します。この現象は、図2に示されています。これらの現象はすべて、いわゆる物体または物質の「放射率」に影響を及ぼします。

放射熱交換
放射熱交換

IRエネルギーを全く反射または透過しない物質は黒体と呼ばれ、自然に存在しないとされます。ただし、理論的計算の目的で、完全黒体には1.0の値が与えられています。黒体の放射率1.0に最も近く現実の世界で実現可能であるものは、図3に示されるように、小さい管状の入り口を備えたIR不透明の球状空洞です。このような球体の内面は、0.998の放射率になります。

放射率
放射率

異なる種類の物質や気体は異なる放射率を持ち、したがって、ある温度では異なる強度でIRを放出します。物質または気体の放射率は、その分子構造と表面特性の関数です。一般に、色の発生源が本体の物質と根本的に異なる物質ではない限り、色の関数ではありません。この実用例が、大量のアルミニウムを含有する金属塗料です。ほとんどの塗料は色に関係なく同じ放射率を有しますが、アルミニウムは非常に異なる放射率を有するため、金属入り塗料の放射率を変化させます。

可視光の場合と同様で、表面が研磨されていればいるほど、表面で反射するIRエネルギーは多くなります。したがって、物質の表面特性もその放射率に影響を及ぼします。温度測定では、これは赤外線を吸収しない物質の場合に最も顕著で、本質的に低い放射率を有します。このように、高度に研磨されたステンレス鋼は、同じステンレス鋼でも研磨されていない機械加工表面のものよりもはるかに低い放射率を持つことになります。これは、機械加工によって生じた溝が、大部分のIRエネルギーの反射を妨げるからです。分子構造や表面状態に加えて、物質または気体の放射率に影響を与える3番目の因子は、センサのスペクトル反応と呼ばれる、センサの波長感度です。上述のように、実際の温度測定には、0.7ミクロン~20ミクロンのIR波長しか使用されません。この範囲全体で、それぞれのセンサは、0.78~1.06、または4.8~5.2ミクロンなど、狭い部分でしか動作することができません。この理由は後述します。

IR温度測定の理論的根拠

赤外線温度測定の基礎となっている数式は古く、既に確立され、十分に証明されています。大部分のIRT使用者がこれらの数式を利用することが必要になるとは思いませんが、その知識は、所定の変数の相互依存性を理解し、前述の説明を明確化するために役立ちます。重要な数式は以下のとおりです。
  1. 「キルヒホッフの法則」物体が熱平衡にある場合、吸収量は放射量に等しくなります。
  2. 「シュテファン=ボルツマンの法則」物体が熱くなればなるほど、放出する赤外線エネルギーは多くなります。
  3. 「ウィーンの変位則」最大量のエネルギーが放出される波長は、温度が上昇するにつれて短くなります。
  4. 「プランクの法則」スペクトルの放射率、温度、放射エネルギーの関係を説明します。

赤外線放射温度計の設計と構築

基本的な赤外線放射温度計(IRT)の設計は、対象物によって放出されるエネルギーを集めるレンズ、そのエネルギーを電気信号に変換する検出器、IRT校正を測定対象物体の放出特性に一致させる放射率調整、周囲の変化によるIRT内部の温度変化が最終出力に影響しないようにする周囲温度補正回路から構成されます。長年にわたり、市販されているIRTの大部分は、この概念に従っていました。用途が非常に限定されており、後から考えると、ほとんどの状況で満足に測定できませんでしたが、非常に耐久性が高く、当時の標準としては十分でした。この概念は、図4に示されています。

赤外線放射温度測定
赤外線放射温度測定

最近のIRTは、この概念に基づいてはいるものの、技術的にはより進歩し適用範囲が広がっています。主な違いは、より多くの種類の検出器の使用、IR信号の選択的フィルタリング、検出器出力の線形化と増幅、そして4~20 mA、0~10 Vdcなどの標準最終出力の提供にみられます。図5は、典型的な現代のIRTの模式図です。おそらく赤外線放射温度計の最も重要な進歩は、入力IR信号の選択的フィルタリングを導入したことです。これは、より高感度の検出器やより安定した信号増幅器が利用できるようになったために実現されました。初期のIRTは有効な検出器出力を得るために広範囲のスペクトルのIRが必要でしたが、現代のIRTは通常わずか1ミクロンのスペクトル応答しか備えていません。選択された狭いスペクトル応答が必要となることがありますが、その理由は、視野経路にある何らかの形の大気またはその他の干渉を通して確認する、または実際に広範囲のIRエネルギーを透過させる気体またはその他の物質の測定値を取得するかのいずれかです。

現代の赤外線放射温度計
現代の赤外線放射温度計

選択的スペクトル応答の一般的な例として、8~14ミクロン(長い経路の測定で、大気中水分からの干渉を回避)、7.9ミクロン(薄膜プラスチックの測定に使用)、3.86ミクロン(炎や燃焼気体中のCO2およびH2O蒸気からの干渉を回避)があります。波長スペクトル反応の長短の選択は温度範囲によっても決定されますが、それは、プランクの法則が示すように、ピークエネルギーが温度上昇と共に短い波長へと移行するためです。図6のグラフがこの現象を示しています。上記の理由のため選択的フィルタリングを必要としない用途では、できる限り0.7ミクロンに近い、狭いスペクトル応答によって利益を得られることがあります。これは、物質の有効放射率が短い波長で最高になり、狭いスペクトル応答のセンサの精度が、ターゲット表面の放射率の変化による影響を受けにくくなるからです。

放射率

前述の情報から、放射率が赤外線温度測定における非常に重要な因子であることは明らかです。測定対象物質の放射率がわかっていて測定に取り込まれていない限り、正確なデータが得られる可能性は低くなります。物質の放射率を得るには2つの方法があります。

a) 公開されている表を参照する、b)IRT測定値を熱電対または抵抗温度計によって同時に得た測定値と比較し、IRTが同じ値を読み取るまで放射率の設定を調整する、という2通りの方法です。幸い、IRTメーカーや研究機関から豊富なデータが公開されているため、実験の必要はほとんどありません。概して、ほとんどの不透明の非金属物質は0.85~9.0の範囲の高く安定した放射率を有し、ほとんどの非酸化金属物質は0.2~0.5の範囲の低~中程度の放射率を有します。例外は、金、銀、アルミニウムで、ほぼ0.02~0.04程度の放射率を有するため、IRTでの測定が非常に困難です。測定されている基本的な物質の放射率を確立することは、ほとんどの場合可能ですが、ほとんどの金属、およびシリコンや高純度の単独結晶セラミックスなど、温度と共に放射率が変化する物質の場合は複雑なことになります。この現象を示す用途は、一部、2色レシオ温度測定法を使用して解決することができます。

2色温度測定

赤外線放射温度計から正確な温度データを取得する上で放射率がこのように重要な役割を果たしていることを考えれば、この変数から独立して測定するセンサを設計する試みがなされてきたことは驚くべきことではありません。そのような設計の中で最も広く認められ、最も一般的に適用されているのが、2色レシオ温度計です。この技術は、これまで説明してきた赤外線放射温度計と異なるわけではありませんが、絶対エネルギーを1つの波長または波長帯で測定する代わりに、2つの波長における素材から放射される赤外線エネルギーの比率を2つの波長で測定します。この文脈での「色」という用語の使用はやや時代遅れですが、それにもかかわらず他の用語に変更されていません。これは、「色温度」という可視色を温度に結び付ける慣例に起因しています。

2色温度計の有効性の根拠は、測定されている物質表面の放射特性、またはセンサと物質の視野経路のいずれかの変化が2つの検出器によって同一に「見られる」ことになり、このため、その比率、したがって、センサ出力が結果として変化しないことにあります。図7は、簡単な2色温度計の模式図を示します。

放射率
2色温度測定
(比率温度測定)

比率方法は、既定の条件下では、変化する又は不明の放射率、視野経路の見えづらさ、視野外の物体の測定によって生じる不正確な測定を回避することから、一部の困難な適用問題を解決するために非常に有用です。この中には、金属の急速な誘導加熱、セメントキルン燃焼ゾーンの温度、金属の真空溶解のように徐々に見えにくくなる窓からの測定があります。ただし、注意すべきは、これらの動的な変化は、その比率で使用された2つの波長で、センサによって同一に「見られる」ことが必要ですが、必ずしもそうならない場合があるということです。全ての物質の放射率が2つの異なる波長で均一に変化するわけではありません。均一に変化する物質は「灰色体」と呼ばれ、均一に変化しない物質は「非灰色体」と呼ばれます。視野経路のすべての形式の見えづらさにより比率波長が均一に減衰するわけでもありません。視野経路において使用されている波長と同じミクロンサイズの粒子が優勢な場合は、明らかに比率のバランスがくずれます。「非灰色体」物質などの本質的に非動的である現象には、比率をバイアスする「スロープ」と呼ばれる調整方法によって対処することができます。ただし、一般に、適切なスロープの設定が実験的に求められます。これらの制約に関わらず、比率法は数々の十分に確立された用途で機能し、その他の用途においても最も好ましい解決策ではないとしても最良の方法と言えます。

赤外線放射温度計のまとめ

赤外線温度測定は十分に開発された動力学技術であり、さまざまな業界や機関から高く評価されています。多くの温度測定用途で欠かせない技法であり、その他の用途においても推奨方法です。この技術が使用者によって適切に理解され、関連のアプリケーションパラメータすべてが適切に検討されれば、機器が注意深く設置されている限り、通常は応用の成功という結果がもたらされます。注意深い設置とは、センサを指定された環境動作範囲内で作動させること、光学機器に汚れがなく障害物がない状態を保つために十分な対策がとられていることを意味します。メーカーを選択する際の選択過程の因子は、保護および設置部品の可用性であるべきで、また、これらの部品によって保守作業でセンサを短時間で取り外したり、交換したりできる程度についても検討すべきです。以上のガイドラインを守った場合、現代の赤外線放射温度計は、多くの場合、熱電対または抵抗温度計よりも高い信頼性で動作するようになります。

参考文献
Darling, Charles R.; "Pyrometry. A Practical Treatise on the Measurement of High Temperatures." Published by E.&F.N. Spon Ltd. London. 1911.

Author and Presenter: John Merchant, Sales Manager, Mikron Instrument Company Inc.

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